科学研究費補助金 基盤(C) 15K01448 H27~H29

パーキンソン病患者のQOL向上のための新たなリハビリシステムの創生

代表者:黒沢 忠輝


人間対象研究倫理委員会(八戸高専)


平成27年4月21日審査
平成27年4月30日承認 H27人倫理承認第1号

研究目的


 本研究は、特にパーキンソン病患者の日常生活での運動機能障害の緩和を目指す新たなリハビリシステムを創生することを目的とし、特に低周波振動刺激が患者の運動症状のひとつである筋固縮症状に及ぼす影響を調査するために、低周波全身揺動装置の開発と健常者および患者に対する臨床試験を行う。またその運動機能の変化を客観的かつ定量的に行うために、医師に代わり患者の前腕を機械的に屈伸させ評価する装置を開発し、その結果と医師による診断との照合による診断の定量評価システムを構築する。

研究計画・方法


(1) 全身振動装置の日常診療において実用可能な装置への改良および臨床試験
(2) 筋固縮症状の定量評価装置の開発

(1) 全身振動装置の日常診療において実用可能な装置への改良および臨床試験


・スイング型全身振動装置の開発(図1)
 開発した全身振動装置を図1に示す.チェアの下方を支える半円形の鉄棒をローラーで前後に動かす仕組みである。足腰が軽く屈曲して患者にとって姿勢が非常に楽である.

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図1 スイング型全身振動装置

 パーキンソン病患者12名(平均ヤールステージ2.6)に自動ロッキングチェアによる頭尾方向の振動を周波数0.3 Hz,振幅15 cm,10分間,閉眼の状態で与え,その前後にTUGTおよびUPDRS Part Ⅲを測定した。また,立位姿勢での前屈と側屈の程度を写真上で測定した。
結果,TUGTに有意な変化はみられなかった。UPDRS Part Ⅲについては振動負荷によって22.3±2.8から17.7±2.2へと有意な低下(改善)が認められた (p&ly;0.01)。さらにUPDRS Part Ⅲのサブクラス解析では,固縮(p&ly;0.01)と四肢の運動(p&ly;0.05)に有意な改善が認められた(表1)。立位姿勢での前屈と側屈の程度に有意な変化はみられなかったが,1例のみで前屈角度が28.8度から18.0度へと著明な改善を認めた。
引き続き,ときわ台病院(青森県藤崎町)の協力を得て臨床試験を重ねている.

・水平方向全身振動装置の開発
 座位や立位で鉛直方向に加振した場合,患者の姿勢保持や頸部や腰部,下肢骨格へ影響が懸念されるため,仰臥位の姿勢で水平方向に振動する全身振動装置を図2に示す.ベッドが長手方向に水平に往復する.往復にはクランク機構を用いており振り幅は120mmである.テストでは200kgの荷重まで0.05Hz~1.00Hzの間で0.05Hz刻みで変更することができる.

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図2 水平方向全身振動装置

 健常者に対する振動実験を行った.図2の装置を使用し,被験者の人数は男性5人女性5人の計10人である.実験条件は,振動数は0.3Hz,0.5Hz,0.7Hzの3種類,振幅94.2mm振動曝露時間は2分,5分,10分で行った.それぞれの振動数での振動曝露の直後,5分後,10分後の閉眼歩行5歩の直線位置からの逸脱距離を測定した.図3に振動0.5Hzの場合の測定の10名の平均値を示す.暴露直後から暴露後10分経過しても閉眼のバランス感覚に効果が見られることがわかる.ただしプラシボー効果や測定への慣れも考えられるため,引き続き実験を重ねる必要がある.

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図3 閉眼歩行の逸脱距離

(2) 筋固縮症状の定量評価装置の開発


・定量評価装置の開発
 開発した肘関節抵抗の定量評価装置を図4に示す.本装置は,PCから制御信号が送られ,アンプを介してモーターを駆動し,緑の揺動部が安全な範囲で上肢を乗せて肘を中心にスイングする.その時の入力トルクがトルクメーターで,スイング角がポテンショメーターで測定され,PCに収集される.この入出力データを基に,既約分解表現を用いた対象システムの物理パラメータ推定法(1)によってPCで計算され,,肘関節の抵抗を数値的に表すものである.撮影のために安全カバーをはずしている.

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図4 筋固縮定量評価装置

・擬似腕
 高齢者男女の前腕の平均の重さや平均的な重心を考慮した肘関節を模した上腕を製作した.関節部に軸受けを入れて摩擦をなくすとともに,巻き荷重バネを入れて抵抗とした.人体計測の統計から,高齢者男性の上腕質量は1.9kg,肘から重心までの距離は103mm,高齢者女性の上腕質量は1.55kg,肘から重心までの距離は89mmになるよう設計した

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図5 擬似上腕(高齢者男性)

・物理パラメータの直接推定
リンク[pdf]

論文等


(1)事前情報を活用する物理パラメータの同定方法(第一報:新しい同定方法の提案), 大日方五郎,黒沢忠輝,川合忠雄, 日本機械学会論文集C編,70巻,691号,pp714-719, 2004.

口頭発表


パーキンソン病症状に対する全身振動の影響, 久保沢周平,黒沢忠輝, 日本機械学会東北学生会第46回卒業研究発表講演会講演論文集, pp124-125, 2016.

Greater improvement of motor symptoms of Parkinson’s disease by slow body swaying with an automatic rocking chair than by simple rest on the chair, Kazuya Kannari, Isamu Ozaki, Tadateru Kurosawa, 1st Congress of the European Academy of Neurology, European Journal of Neurology, 22 (Suppl. 1), p747, 2015.

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